松原凛子

『失楽園』より



松原凛子(演者:黒木瞳)


 カルチャーセンターで書道の講師をしている38歳の人妻。彼女は“楷書の君"と呼ばれているほど折り目正しく淑やかな女性だが、出版社の敏腕編集者である久木祥一郎(50歳)と出会い彼の強引でひたむきな恋の訴えに、やがて彼を受け入れた。そして、週末毎に逢瀬を重ねていくうちに、凛子はいつの間にか性の歓びの底知れない深みに捕われていく。

 二人の関係は次第にエスカレートしていくが、そうした行動は隠し通せるものではなく、凛子の夫・晴彦は興信所の調査で妻の不貞を知る。家庭や社会からの孤立が深まっていく中、それでも二人は逢うことを止めようとはせず、凛子は晴彦や実母との縁を切って、久木のもとに走った。「至高の愛の瞬間のまま死ねたら」という凛子の願いに共感するようになった久木は、誰にも告げず、二人でこの世を去ろうと決意する。雪深い温泉宿へ向かった久木と凛子は、生命を絞るように激しく求め合ったまま、互いに毒の入った赤ワインを口にした。

 後日発見された二人の心中死体は、全裸のまま共に強く抱擁し、局部が結合したままの愛の絶頂の瞬間の姿であった。死後硬直の最も強い時間帯であったため容易に引き離せない状態だった。死亡原因は赤ワインに混入された毒物による急性呼吸停止。