杉戸八重

『飢餓海峡』より



杉戸八重(演者:左幸子)
 青森県大湊の娼婦・杉戸八重は、一夜を共にした犬飼多吉と名乗る見知らぬ客から、思いがけない大金を渡される。悲惨な境涯から抜け出したいと願っていながらも現実に押しつぶされかけていた八重に、その大金は希望を与えてくれるものだった。八重は借金を清算して足を洗い東京に出るが、犬飼の恩を忘れることはなく、金を包んであった新聞と犬飼の爪を肌身はなさず持っていた。

 10年後、八重はふと目にした新聞の紙面に驚愕する。舞鶴で食品会社を経営する事業家・樽見京一郎なる人物が、刑余者の更生事業資金に3000万円を寄贈したという。記事に添えられた樽見の写真には、行方が知れないままになっていた恩人・犬飼の面影があった。八重は舞鶴に赴くが、樽見と会った翌朝、彼女は海岸に浮かぶ死体となって発見された。当初は自殺と思われたが、八重の懐中から樽見に関する新聞の切り抜きが発見され、その後の捜査で彼女の死は樽見(犬飼)による偽装殺人(首を絞めて海に遺棄)であることがわかった。